在宅介護トークルームにて「“入れ歯があるのに困っている人”を、どう見つけ、どう対応していくか」について講演しました。

2026年4月28日、ベストリハ株式会社が主催するセミナー「在宅介護トークルーム vol.7」にて、当院の院長・角田愛美が講師として登壇いたしました。
本セミナーは、リアル会場とオンラインのハイブリッド形式で開催され、訪問看護師、リハビリ職、ケアマネジャー、管理栄養士、医師など、在宅介護を支える多職種の皆様にご参加いただきました。

今回のテーマは、
「“入れ歯があるのに困っている人”を、どう見つけ、どう対応していくか」
訪問歯科診療の現場から、介護現場の皆様に知っていただきたい「お口のサイン」についてお話ししました。

口は、生活の変化が見える場所

口は、単に「歯があるか」「汚れているか」を見る場所ではありません。
歯や被せ物、入れ歯などの硬い組織には、その方の治療歴や食生活の歴史が表れます。
一方で、歯ぐき、舌、頬の内側、唾液の状態などは、現在の体調や生活の変化を反映します。
家のキッチンを見ると暮らしが見えるように、口を見ると、その人の生活や生き方が見えてきます。

残根は、感染源にも入れ歯の不適合にもつながります

講演で特にお伝えしたかったことの一つが、残根や重度の虫歯、歯周病を放置するリスクです。
残根とは、歯の頭の部分が大きく崩れ、根だけが残っている状態です。
痛みがないと「今は困っていない」と見えることがありますが、残根や重度の虫歯は、口の中に慢性的な感染源として残り続けることがあります。

ご高齢の方や要介護状態の方では、口の中の炎症が、発熱、食欲低下、誤嚥性肺炎、全身状態の悪化につながることもあります。

さらに、残根を残したままにしておくと、入れ歯がうまく入らない、当たって痛い、安定しない、噛めないなど、入れ歯の不適合の原因になることもあります。口腔ケアはもちろん大切ですが、感染源や入れ歯の不適合の原因がある場合、清掃だけでは解決できないこともあります。
だからこそ、生活を崩す火種を早めに見つけ、歯科につなぐことが大切です。

「食べている」ことと「噛めている」ことは違います

講演では、グミやハッピーターンを使った実習も行いました。
食べるためには、歯、入れ歯、舌、頬、唾液、姿勢、飲み込む力など、さまざまな要素が関係しています。
食べ物を噛み砕き、唾液と混ぜ、飲み込みやすい形にまとめる「食塊形成」までできて、初めて安全に食べることができます。
同じように「食べている」ように見えても、実際には食事に時間がかかる、疲れやすい、柔らかいものばかり選んでいることがあります。

入れ歯は、作って終わりではありません

年齢を重ねると、歯を失う、歯が動く、顎の骨がやせる、筋力が落ちる、姿勢が変わる、体重が減るなど、口と体には大きな変化が起こります。
その変化は、入れ歯の合い具合や食べる力にも影響します。

入れ歯は一度作ったら終わりの完成品ではありません。
体や生活の変化に合わせて、調整し続ける装置です。

「入れ歯がある」ことと、「その入れ歯が使えている」ことは別です。
入れ歯が家に置いたまま、入れているけれど噛めない、痛くて外している、壊れているのに使っている。
こうした状態は、食事量の低下、体重減少、会話量の減少、生活意欲の低下にもつながります。

多職種の皆様にお願いしたいこと

介護現場の皆様にお願いしたいのは、歯科診断ではなく、生活の中に出ている小さなサインに気づくことです。
食事に時間がかかる、柔らかいものばかり選ぶ、好きだったものを食べなくなる、食後に疲れる、薬が飲みにくい、むせる、入れ歯を外したまま過ごす、口臭が強い、口内炎を繰り返す、会話量が減る、体重が減る。
こうした変化の背景に、合わない入れ歯、噛めない状態、残根や歯周病による慢性炎症が隠れていることがあります。

「何が食べにくいのか」
「いつから変化したのか」
「入れ歯をどのくらい使えているのか」
「食事や会話、表情にどんな変化があるのか」
こうした生活情報を添えて歯科につないでいただくことが、その方の生活を守る大きな一歩になります。

これからも多職種の皆様とともに

“入れ歯があるのに困っている人”は、口の中だけでなく、生活の中にサインを出しています。けれど、ご本人はそれを「年のせい」「仕方ない」とあきらめていることがあります。

歯科につなぐことは、歯だけを診てもらうことではありません。
その方の食べる、話す、笑う、暮らすをもう一度支えることです。

当院では今後も、地域の多職種の皆様と連携しながら、患者様の「食べる」と「暮らす」を支えてまいります。

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